サハラ砂漠の秘密/ジュール・ヴェルヌ/石川湧訳

 ハードSFは苦手です。ソフトなSF(すこし不思議)なら好きです。と昔、話をしてて、ハードとかソフトとかSMみたいだからやめようよといわれたことを思い出す。
 ポオの「小説にリアリティを出すために最新の科学を取り込む」という話を聞いて、SFの祖となったヴェルヌは偉大だわ。

サハラ砂漠の秘密 (創元SF文庫)

サハラ砂漠の秘密 (創元SF文庫)

 アフリカで反乱を起こしたと、銃殺に処された兄バクストン大尉の汚名を晴らすべく男勝りのヒロイン、ジェーンは年上の甥サン=ベランを従えて、フランスのニジェール川調査団に加わった。
 暗黒大陸アフリカのその中でも誰も近寄らないような砂漠の真ん中にそびえる秘密都市。ヨーロッパよりも進んだ科学の力を悪用する略奪者たち。バクストン大尉の反乱の真相とは。悪の専制君主ハリー・キラーとは何者なのか!?

 19世紀。最新鋭の科学。まだ見ぬ秘境。大冒険。少年心がくすぐられる。
 また、この男勝りのヒロインとぼんやりしたとぼけた甥の凸凹コンビがたまらない。話の最初にバクストン・グレナー一族の説明があるが、なかなかにややこしい。(サン=ベランは長女の息子で、ジェーンは後妻との間の末っ子なのでサン=ベランはジェーンの父親といってもいいようなおっさんである)
 しかし、それによるグレナー一家が巻き込まれた事件として、またジェーンとサン=ベランの珍道中として物語が面白くなるスパイスとなっている。
 また、バルザック調査団の面々がみんな一癖も二癖もある連中で、陽気な南仏オヤジのバルザック団長、逆に陰気な軍国主義者のボードリエール准団長。ロマンチストな詩人のシャトネー医師。オタクの統計学者ポンサン。職務に忠実な軍人マルスネー大尉。好奇心と誇大な表現で読者を物語に引き込む語り手の新聞記者アメデー・フロランス。勇敢な現地案内人のトンガネ。調査団のメンバーだけでもこんなに多いと言うのにそれを苦に感じないほど、それぞれのキャラクターが立っており、道中繰り広げられる彼らのやり取りだけでも楽しい旅行記である。
 あと、個人的に気になったのは道中はアメデー・フロランスの手記という書かれ方をするが、バルザック調査団に加わる前のジェーンやグレナー一家について、またフロランスの手記を読んでいると言う第三者の視点で書かれているのか、語り手が誰なのか分かりにくい。三人称視点の語り手がフロランスの手記という一人称視点の手帳を読んでいるというべきなのか、そういう視点の移り変わりが気になっていたので最後の最後に無駄に感動してしまったのは、やっぱ自分も文章を書く人間だからなのかもしれない。