われらが英雄スクラッフィ/ポール・ギャリコ

われらが英雄スクラッフィ (創元推理文庫)

われらが英雄スクラッフィ (創元推理文庫)

 トマシーナに続き、ギャリコ連続。最初は興味が無かったが、舞台がジブラルタルというだけで購入してしまった自分。

 時は第二次大戦中。イギリスの海外領土のひとつで、地中海の入り口という要衝ジブラルタル。中立を保つフランコ・スペインの参戦をめぐり、イギリスとドイツはかの地で熾烈な情報戦を展開していた。
 「ジブラルタルから猿がいなくなった時、イギリス人はかの地を去らねばならない」という古い言い伝えの中、戦時下という厳しい条件によりジブラルタルでは猿が絶滅寸前となってしまう。首相から下された指令「ジブラルタルの猿の数を増やせ」の下、英国陸軍サル担当士官ティム・ベイリー大尉と部下ラブジョイの戦いが始まる。
 ジャンルとしては恋愛コメディ。
 この世のすべてを憎む悪鬼ともいえるサル、スクラッフィをはじめとして、キャラクターの立て方が上手いと思った。
 コメディってのは人物が立たないと面白くないのだが、典型的な善人でサル好きのティム、ひねてはいるがどこか憎めないラブジョイ、情報部に所属し様々なラインを持つエリートであるがたまに抜けたところがあるクライド少佐などが繰り広げる事件は愉快であり、どんな苦境にあっても笑えてしまうところが返って爽快である。
 わしのお気に入りのキャラは、アルフォンソ・T・ラミレス氏。ブ男・ハゲ・ネクラというコンプレックスの塊であるジブラルタル人のラミレス氏は、ドイツ人とのハーフでありナチズムに傾倒し、ジブラルタルからイギリスを追い出そうと暗躍をするのだが、度胸が無いためにその計画はどこかしら間が抜けているし、ラストにいたっては勤務中の飲酒がばれそうになったラブジョイのとっさの嘘で、イギリスから感謝状をもらってしまうとあっという間に親英派なってしまうという、なんともいえない小物ぶり。
 イギリスを追い出すために暗躍するときはワーグナーのニーベルンゲンの登場人物にあやかった"アルフォンソ・トロイガング・ラミレス"と書かれるのに対し、親英になったとたん名前が本名の"アルフォンソ・トマーゾ・ラミレス"とミドルネームを使い分けてしまうあたりに作者の洒落を感じる。どこまでもユーモアを忘れないエンターテナーとしてのギャリコの芸の細かさを感じる一冊であった。