貧富の差

去年のセンター試験会場にて
「あいつ見たか?控え室に両親どころか妹まで来てたぜ」
「まじかよ。過保護にもほどがあるだろ」
「あいつんちでっかい病院やってるらしいから、期待の息子なんだろ?」
「まぁ、俺はあいつなんかよりお前にがんばって欲しいけどな」(わし指差し)
「いや、いきなりなんで俺?」
「んー、なんとなく貧富の差かな」
という言葉をくれた友人である。

 高校3年間あんまり金を持ってないキャラで通した。私立校だったのでいいとこのぼんぼんが多い学校だった。わしのクラスにも家がそこそこ大きい学習塾を経営してるとかでいつも財布の中に20万近く金を入れてるやつがいた。その上甘やかされて育ってるからわがままでうざくてうざくてしょうがなかった。漫画のキャラみたいな男であった。
 そいつがまた勘違いをしてるのか、クラスの気が弱そうなやつを飯に誘う。奢ってやるから、全部食えといって中華なり何なり食わせるわけだが、それに酢を横から掛け捲ったりして妨害に妨害を重ねて楽しむという遊びに夢中になった時期が合った。中高一貫の田舎の私立校である。高等部編入であっても、firstheavenの中の人みたいな性格*1の人間がたくさんいるのである。ターゲットには事欠かない。
 数名の友人としか喋らなかったわしにももちろん白羽の矢が立ち、ある日そいつと中華料理屋に誘われた。奢ってもらえるならと喜んでついていったら、どっこい。胃液みたいな味と見た目にされたピータンを十皿ちかくも食べさせられるはめになった。数千円もピータンについやすって、今まで食ってきた飯の中で一番気が狂った飯だった。
 わしはそれ以降、表立ってそいつのことが嫌いになった。というか、もう顔をあわせるだけで嫌そうな顔をしてやる勢いだった。そんなときに、そいつとよくつるんでいたのが今日会った友人である。
 千葉から茨城の学校に通っていたわしであったが、そいつとは家が近かったのでよく一緒の電車になった。金持ちのぼんぼんとわしとの間にいる奴だった。金持ちのぼんぼんは毎週末のようにカラオケやビリヤードに仲間を誘っており、もちろんピータンを食ったわしも友人を通して声をよくかけられた。
 しかし、ピータンの二の舞は嫌だったというか、友人を通してぼんぼんの餌食になったヤツの話を聞いていたのでなおさら信用ができなかったので、「金が無い」などと言って毎月ROとかやる余裕があるくせに断り続けていた。
 結果、ぼんぼん周辺ではわしは貧困層の家の子ということになってしまった。そのおかげで、高校時代の後半はまったくぼんぼんから声をかけられなくなった。
 そんなこんなで私立校に通ってるくせに貧しいということで、むしろ応援されるような始末だった。

 大学受験が終わって、わしは浪人したくない一心で今の大学。友人もわしと同じ大学に入り、ボンボンは両親から医者になることを期待されて高校に入ったのに、遊べそうだという理由で文系クラスにいたことが親にばれ、浪人して医学部を目指すことになった。同じ大学とはいえ、同じラウンジの隣のサークル同士とはいえ友人とも会話はまったく無かった。ぼんぼん主催の飲み会に一度誘われたが、わしは思いっきり断った。そして、今日になって本が読みたいという理由で久しぶりの再開を果たしたのだった。そして、その場所が以前ピータンをしこたま食わされた店と同じ系列の店。

「あいつ?あいつは浪人しても結局遊んで歩いてるんで親が切れて携帯とかとめたらしくて連絡はまったく取れないよ」
盛者必衰の切なさを感じていると、

「いや、あれからね。あいつが主催で飲み会が何回かあったんだけどね。お前、絶対来ないと思ったから誘わなかったよ」
しまいには
「本貸してもらったし、今日は奢るよ。お前あんま外で飯とか食わないだろ?」

何かと言葉の端につけて貧しい人扱いされてるとだんだん腹が立ってくる話である。

*1:完全に身内向けの表現であるが、彼がどんな人間かは文脈から悟って欲しい