長いお別れ/レイモンド・チャンドラー

 ミステリを本気で読み始めたのは大学に入ってから。
 やはり、海外名作古典を読んでいく上ではずせないライン上にフィリップ・マーロウはいると思う。というわけで、そんな折にplasticdarkness先輩から「あげるよー」と投げつけられたので、ありがたくいただいて読む。ほんと、こんなハードボイルドの基本書を読んでないとか、わしはサークルにいちゃいけない人間だった。今後気をつけます。
 マーロウがかっこよすぎる。不器用といえばいいのだろうか、より自分が苦しくなるとわかっているのに自分を曲げることなく、相手を怒らせてしまう。そして、また苦境へと足を踏み入れていく。
 そんなマーロウが不器用にしか生きられない人間たちを見つめていく姿はどこかしら切なさを禁じえない。
 わしのような排他的なオタク男にとって、マーロウのような拒絶の上に成り立つ人物像は憧れる。そして、寂しさに負けてどんなに陰鬱とした気分になっても、他人を求めてしまう自分には永遠にたどり着けないものであるのだろうと思うと、よりいとおしく感じる。それがフィリップ・マーロウに対するわしの気持ち。
 個人的に、ウェイド家に仕えるボーイのキャンディがかなりいい人物。ハウスボーイらしい人懐っこさの裏に、南米系低層移民の荒々しさが隠されていて、何より主人を愛しているのに、それをあまり信用してもらえないところが切ない。そして、一度信頼するなりマーロウの言葉に従う素直さはどこかしら可愛ささえ感じる。事件の中で彼に嫌疑がかからないようにというマーロウと彼とのやり取りはわしの中ではかなりフェイバリットな部分。

 そして、どうでもいいが清水俊二の訳が妙に眠たかった。"そして誰もいなくなった"は普通に読めたのに、こっちは妙に読みにくさを感じた。なぜだろう。