破壊の剣―ウォーハンマーTRPGリプレイ―/友野詳/グループSNE

 超文明を誇った人類。彼らは超文明の力によって惑星全体を支配し、エルフやハーフリング、ドワーフに教育を施したりしていた。しかし、ある時、異次元より現れた『混沌』の襲来により、あっけなく文明は崩壊した。
 時代はそれからしばらく後。文明を失い、中世ヨーロッパ程度の文化レベルしか持たなくなった人類は今でも南極・北極から襲ってくる『混沌』との戦いを続けていた。
 オールドワールド(ヨーロッパにあたる)の南に位置するボーダープリンス地方。ゴブリン族の多く住むバッドランドに隣するような辺境、シャンゲティールに住む牧者ロビンは突如街へと押し寄せてきたゴブリンたちによって農園を焼かれてしまう。ゴブリンの襲撃を街へ知らせようと急ぐ彼女。彼女に合流した胡散臭い占い師ムッシュー、子沢山のドワーフのナイ、エルフで魔術師見習いのメイルー、ハーフリングのネズミ捕りプープらはこのゴブリンたち『混沌』の襲撃によって街を破壊されてしまう。その最中、ひょんなことから手にした魔剣をめぐって襲い掛かる『混沌』の騎士たち。
 そして、街を失い難民となった市民を連れ、その受け入れ先を求め、彼女たちの旅が始まる。
 というわけで、TRPGは数あれどイギリスのゲームズ・ワークショップ・スタジオが作り上げた重厚なファンタジー世界を元に作られたTRPGシステム。このほかにウォーハンマーボードゲームとして様々フィギュアが出てたりするが、社会思想社の文庫が潰れたおかげで、TRPGよりもフィギュアのほうが知ってる人は多いかもしれない。
 これはこのTRPGのリプレイである。ちなみに続編プラーグの魔術師の2冊のシリーズ。
 混沌という得体の知れないモンスターたちを前になす術も無く、身を寄せ合って暮らすことしかできない人々。そして、混沌の持つ強大な力に魅了され、モンスターへと変貌する人間。クトゥルフ神話指輪物語を足して割ったような世界観と、キャラクターの成長が楽しいシステムがプレイヤーを魅了してやまないゲームである。実際、システムにもD&Dクトゥルフ神話のシステムを多大に取り込んでいたりするし。
 このリプレイも、そんなゲームの魅力を余すところ無く伝えてくれる。絶望的な苦難を前にしてやりたいほうだいなプレイヤーたちとそれを時には強引に、時には操るようにまとめてゆくGM友野詳の力が自由奔放になりがちなセッションを魅力的な物語として作り上げる。
 強欲で自分勝手なムッシュー、普段は穏やかだが異種族を見ると闘争心に火がつきたとえ相手が友好的な種族であろうとかかっていくナイ、パーティのお姉さん的存在のメイルー、怒りが暴発するナイを後ろからサポートするプープ、そして世紀末的な困難に立ち向かう健気なロビンとそれぞれのキャラが生きており、各々が自分の技能を生かし見せ場を作ってくれるおかげで、暗い世界観を前に話が水臭くなるのを防ぎ、楽しい気分にさせてくれる。
 良いTRPGセッションの形が見えるリプレイである。

 わしのお気に入りはナイ。穏やかな性格なのだがドワーフの気性のせいでいきなり暴れだす姿は見ててかわいらしさすら感じさせる。子沢山の父である彼の子供たちザブロー、ゴーロ(三郎・五郎のもじり)もなかなかいい味を出してくれる。

 ちなみにこのゲームシステム。社会思想社の文庫が潰れたおかげで基本ルールブックが全3巻(3冊そろえないと遊べない)がセット一万円で古本で売られていたりとほんとに手が届かないところにある。復刊を臨む。マディデ