椿山課長の七日間/浅田次郎

椿山課長の七日間 (朝日文庫)

椿山課長の七日間 (朝日文庫)

 気がつけば沙羅の並木道を歩いていた。夏のバーゲン商戦。とあるデパートの婦人服第一課課長椿山和昭はその戦線に立っていたはずだった。
 バーゲンセール初日、取引先との接待中に脳溢血でこの世を去った椿山利昭46歳。死ぬにはまだ惜しすぎるし、死んでも死に切れない。
 そんな彼のために、この世とあの世の境にあるという死者たちを管理する役所は七日間だけ現世に戻ることを条件付で許可をおろした。その条件とは死後七日間以内という時間厳守、現世の人々に恨みを晴らそうとしてはいけない、そして、正体を悟られてはいけない。
 椿山と共に現世に帰ることが許されたのは、銀座で鉄砲玉に射殺されたが、死に際に「ひゃー、あかん、人違いや。間違ってもうた」という声を聞いてしまったヤクザの組長、そして、椿山の息子と年端も変わらないような少年。
 死者と残された人々がすごす奇妙な七日間。家族の絆、無償の愛、人の一生を描く感動巨編。

というような、売り文句なあらすじをつけてみたが、実際は七日間もありません。
 浅田次郎はすごい。人の生き様を問うような作品であるのにもかかわらず、笑わせるところは笑わせ、締めるところはきっちり締めてくれる。
 天国と地獄への審判が完全なお役所仕事になっているという浅田次郎の描くコミカルな死後の世界もさながら、登場人物たちも一癖も二癖もある。
 仕事一徹のまま死んでしまった椿山も、ひとちがいで撃ち殺された武田も、トラックに轢かれてしまった聡明な少年もみんな、どこかしら笑わせてくれるのに、どこかしら切ない。
 そして、生きてるときは知りえなかった真実の姿を前にして、死者と生者の交錯する思いなど書くべきところは深く彫りだしてくれる。

 石田衣良のエンジェルも死者が現世に帰る話だったが、同じような形でありながらも、人の生き死になんて笑えないようなテーマでも、コメディタッチに描けるのは浅田次郎の妙だと思った。