シティ・オブ・グラス/ポール・オースター

シティ・オヴ・グラス (角川文庫)

シティ・オヴ・グラス (角川文庫)

 間違い電話から物語は始まった。
 かつては詩人であり、今は覆面推理作家ウィリアム・ウィルソンとして、静かに暮らしているダニエル・クィンは自分を探偵と誤解する男の言葉に興味をそそられ、その倦んだ生活に刺激を与えるために、自らを偽って間違え電話の主の依頼を受けてしまう。
 幼いときに父親から受けた監禁生活の影響で知恵遅れの青年ピーターとその妻ヴァージニアの話によると、かつてピーターを監禁した父親が13年ぶりに出所してくると言う。彼らの依頼はその出所してくる父親がピーターに対して何も害を及ぼさないことを確認するよう尾行してほしいということだった。

 ダニエル・クィン、ウィリアム・ウィルソン、マックス・ワーク、ポール・オースター、わたし。数人の登場人物であるのに、それぞれがそれぞれの投影であり、その中でアイデンティティを崩壊していく人間を描く物語であるが、なんというか、キャプテン翼の登場人物たちがふと「俺たちって実は髪型が違うだけで、あとはみんな同じ顔してね?」って気づいてしまったら、というべきなのか、まぁそのたとえが正しいのか分からないが、そういうときにアイデンティティってやつはどこへ行ってしまったのか。っていう話。

 firstheavenの中の人が好きだと言っていたので読んだが、なんか作品の中に流れるマイナー流と逆に高い評判との間になんかインディーズ出身のそこそこのメジャーバンドっぽさを感じてしまった。というか訳者あとがきにも「俺が最初に翻訳したのに柴田元幸たちが翻訳してどんどん人気になって、俺のものじゃなくなったようでさびしい」というような趣旨の中二病的な発言が見られたので、なんとなく納得してしまったのだった。