物しか書けなかった物書き/ロバート・トゥーイ

物しか書けなかった物書き(KAWADE MYSTERY)

物しか書けなかった物書き(KAWADE MYSTERY)

 奇想天外でぶっ飛んだ発想とそれを小気味良く収束させる快作短編集。
 C調というべきなのか、キテレツな会話や事件に右往左往する人々の様はミステリというよりもコメディ。モンティ・パイソンのようなシュールさと、その一方でオチをしっかりつけてくれるのでサクサクと読めちゃう。
『支払期日を過ぎて』と『家の中の馬』に登場するジャック・モアマンとか大好物。ジョークと変人っぷりで警察を煙に巻く爽快な雰囲気。
 また、チャンドラーの文章をもじったタイトル『いやしい街を』では、売れないハードボイルド作家とその脳内に住む登場人物である探偵とのドタバタを描くが、脳内の登場人物と作家の関係というのはどこか考えさせられるようなテーマである。「彼は死んでしまったけど、彼を忘れなければ、またきっと会うことができるよ」とか「彼は私の心の中で生きている」とか、まぁ臭い台詞はあるが、そうやってAという人物の心の中で生きているキャラクターBが、心の中で出会った人物C(フィクションとして作られた存在)を忘れないでいることによって、AがCのことを忘れてしまっても、Bの中でCは生きることは出来るのかとか、本当に考えさせられる話なんだけど、その考えたことによって何が得られるかって言うと何も得られないあたりがこの話の味噌なんじゃないか。
 『予定変更』や『墓場から出て』なんかは藤子・F・不二雄の短編のようなブラックさを秘めているわけで好きな人には堪らないところだろう。
 あと、解説で法月綸太郎も書いているミステリ作家を野球の投手に例えるというのは言い得て妙であるなぁと思った。