エロマンガ島の三人/長嶋有

エロマンガ島の三人 長嶋有異色作品集

エロマンガ島の三人 長嶋有異色作品集

 エロマンガ島でエロ漫画を読む。そんな馬鹿げた企画のために南国の島エロマンガ島を訪れたゲーム雑誌の編集者佐藤と荷物持ち兼カメラマンの久保田、馬鹿げた企画の発端の一人であった井沢に代わり急遽参加することになったゲーム会社の男、日置。そして、日本で待つ佐藤の恋人鈴江。
 馬鹿げた旅であったはずなのにどこか切ない、不思議な旅が始まる。
表題作他、その後日談を書いた「青色LED」。SF小説「女神の箱」、ゴルフ小説「アルバトロスの夜」、官能小説「ケージ、アンプル、箱」など、大江健三郎賞受賞の作者による異色の作品集。

 本当であれば「エーッ!!」ってなるような出来事をも、たんたんと書ききってしまう。無感動なのかと聞かれれば、否。というような文体が「猛スピードで母は」にもあったのだが、そんな登場人物の感情と文章が乖離しているような浮いているような、それでいて文章は地に足が着いているような味が長嶋有には感じられて、周囲では不評であったけれど高校時代、芥川受賞直後の頃のわしにはそれがなんかヒットして、ちょっとしたプチ純文学ブームが起こるに至ったのだが、この作品も南国の楽園という都会とは切り離された空間(鈴江の場合は佐藤がいない都会)を経ることで己を見つめなおした佐藤、日置、鈴江。間抜けな話のはずなのに、泣いてしまいたくなる様な脱力した雰囲気の長嶋有テイストあふれる作品だと思う。
 また、「アルバトロスの夜」。長嶋有のタッチをもちながらも、ファミコンソフト「ゴルフ」を意識したと言うゴルフ小説には膝を叩かされた。現実味が無い、完全にゲームの世界のゴルフ場を恋人と物言わぬキャディーと駆け回る主人公の葛藤。レトロゲーマーにはぜひ読んでいただきたい話である。
 異色というのに、異色ではないような、本当にどこを食べても長嶋有の味と言うのはなるほど!と思う一冊。