ウニバーサル・スタジオ/北野勇作

ウニバーサル・スタジオ (ハヤカワ文庫JA)

ウニバーサル・スタジオ (ハヤカワ文庫JA)

 田中圭一の漫画でもあったけど、やっぱ往年の阪神ファンにとって2001年2003年のセリーグ優勝は現実として認識できないあまり、これはマトリクス世界の出来事であって現実ではないと思ったのだろうか。たしかに星野仙一阪神を率いてセを制覇するよりも川藤が率いる阪神が最下位争いをしてるほうが現実味があったというのがわしが小学生のころの阪神だった気がする。

 ここはウニバーサル・スタジオ。大阪をテーマにした楽しいアトラクションがあなたをお待ちしています。巨大タコが襲う水上バスの刺激的なライド、四天王寺の亀の池ではカメ型メカとザリガニ型怪生物の痛快なバトル、通天閣からは軌道上イカリングへの魅惑のツアーにお連れします。そして、阪神タイガース優勝を祝しての道頓堀ダイブも心ゆくまでどうぞ。いや現実には、人類滅亡まで二度と優勝できなかったわけですが…。

 ここのあらすじは普段、余力があるときは自分で書いたり、無いときはBOOKデータベースや出版社の帯とかから持ってくるんだけど、今回、この本のあらすじをどうやって書くべきかというので困った。結局e-honの商品の内容から引用させてもらったわけであるが、北野勇作の世界ってどんどん説明するのが難しくなっている気がする。
 異世界探訪モノといえばいいのかもしれないが、火星があった場所しかり、かめくんしかり、どーなつしかり、現実への皮肉と鳥獣戯画のような動物の世界とが融合し、新しいのか古いのかわからない、科学的だけど退廃している、そんな異世界を形成できるのが北野勇作作品の持つ独特の雰囲気なんだと思う。
 このウニバーサルスタジオは滅亡後の地球において、大阪をモチーフとしたテーマパークである。作中において、このテーマパークを訪れる人々や従業員のテーマパークの外での生活や、ましてや彼らが何者であるのかも語られない。
 しかし、この世界は彼らがウニバーサル・スタジオの客として、キャストとして、大阪を舞台にした奇想天外な事件を演じることで成立している。
 章ごとに代わる視点や主人公はまったく定まらず、ウニバーサルスタジオに関係がある全ての人が主人公となり、語り手となる。これは全てどの部分をとっても語り手はあくまでもウニバーサルスタジオであり、各章の主人公はウニバーサルスタジオに吸収された一部分でしかないのだろうか。
 そして、彼らが演じている世界と演じていない素の世界の境界線はあいまいとなってゆく様は個が集団に吸収されていく、大マザーにのっとられていくようで妙な陶酔感を得る。
 個人的にはところどころに散りばめられる「阪神はかくあるべき」というような皮肉っぽい話や、ウニバーサルスタジオのライバルである東京(とは名ばかりの場所にある)ネズミランドから工作員としてやってきた某アヒルなどが強烈に印象に残って「オイオイ、いいのかよ」と思ってしまった。
 しかし、これ人によってはすごい不愉快な話なんじゃないのかなと思う。けど、むしろ不愉快になるような人に読んでもらって、どんどん嫌な気持ちになって欲しい。そんな一冊。