ヴァーノン・ゴッド・リトル/DBCピエール

死刑判決?ありえねぇ!!

ヴァーノン・ゴッド・リトル―死をめぐる21世紀の喜劇

ヴァーノン・ゴッド・リトル―死をめぐる21世紀の喜劇

 テキサス州の町マーティリオを襲った、高校生による銃乱射事件。よりによって、犯人は親友。自殺した犯人と親しかった俺こと、ヴァーノン・リトルは事件現場となった教室を抜け出していたことから共犯者として祭り上げられてしまう。
 息子に依存する母親との二人暮しに、テレビのレポーターを名乗る男が乱入してくるし、捜査はどんどん自分に不利なほうへ不利なほうへと進んでゆく。
 コロンバイン高校銃乱射事件をモチーフに事件のスケープゴートにされた15歳の少年が逃げ回る。若者っぽい下品な言い回しが利いている、ドタバタコメディ小説。2003年、ブッカー賞受賞作

(ボーリング・フォー・コロンバイン+サウスパーク)÷2−「なんてこった!ケニーが殺されちゃった!」「この人でなしー!」という感じの話。
 前提として、ボーリング・フォー・コロンバインとサウスパークが好きという人じゃないと、読みにくい小説である。
 重要なポイントとして、社会的に地位のある人間が片っ端から狂っていて、社会的にキチガイ扱いされている人たちがまともという点。ボーリング・フォー・コロンバインで痛烈にたたかれた社会を大げさにした世界、以前の更新*1でもウェストメンフィスの事件などを書いたりしたが、日本もこういった閉塞的なメディアによる祭り上げが行われたりする国だが、アメリカは日本以上に保守的な土壌がある。都市部の革新的なところしか日本人は見ないけれど、アメリカの本性というのはこのキリスト教の凝り固まった倫理観である。
 ヴァーノン・ゴッド・リトルのマーティリオはこの凄惨な事件と犯人自殺という結果を受けて、倫理観の体面を守るためにヴァーノンを全力で追い詰めてゆく。火浦功の短編「お前が悪い」は人類のすべての罪をかぶせられた男の物語であったが、それに近い勢いである(最終的にテキサス州で起こったすべての殺人事件の犯人にされてしまう)。
 風刺が効きすぎて現実感を失ったシュールな世界を逃げ回る15歳の少年のファッキンな語り口がイカした小説である。でも、正直ブッカー賞はないわー。時事的な話題性で取らせたって感じが否めないわー。