ノノノノ/岡本倫

 そういえば、今年3月。フィンランドのスキージャンパー。鉄仮面ことヤンネ・アホネンが引退した。わしが中学生のころは負けなしでフィンランドスキージャンプを牽引した名選手だった。
 もっとも危険でもっとも過酷でもっとも美しいスポーツは何かと言えばわしはスキージャンプを上げる。
 昔、バイキングが囚人を処刑する時に、囚人にスキー板を履かせて崖から突き落とすという刑を行っていた。
 崖から飛び降りても無事着地することができたならばその者は罪が赦されたという。真偽は確認していないがこの処刑が元となって生まれたと言われるのがスキージャンプ。
 他のどのようなスポーツと違って、この競技はまさに「死ぬためのスポーツ」ともいえる。その極限性ゆえに男女平等の精神が行き届いた現代でもオリンピックでは女性の参加が認められていない。

ノノノノ 1 (ヤングジャンプコミックス)

ノノノノ 1 (ヤングジャンプコミックス)

 元スキージャンプ選手でスポーツ誌の記者与田は大型新人ジャンパー加東の取材のために北海道を訪れる。
 加東の取材をする与田の前に突如、野々宮悠太と名乗る中学生が乱入し、加東を挑発する。
 挑発に乗った加東は野々宮に対しジャンプの飛距離を競う対決を持ちかける。与田の調べでは野々宮は北海道選手権・中学生85位、予選落ちの選手。対する加東はインターハイ優勝、全日本でも3位に入る実力者。実力の差は歴然である。それでありながら、与田は野々宮の持つアスリートとしてのオーラに惹かれ、この対決を注目する。
 勝負は先に飛んだ野々宮がバッケンレコードを更新する大ジャンプを見せ、その秘められた実力を見せ付ける。この謎の少年の正体とは!?

 スキージャンプという競技ほど年々変化するスポーツは無い。札幌オリンピックの頃は板を平行にして飛んでいたジャンパーも長野オリンピックの頃にはV字に開いて飛ぶという姿に変わった。また、かつて全盛を誇った日の丸飛行隊こと日本人選手は長野オリンピックをピークにルール改正によって今では見る影も無く、表彰台から遠のいた。この競技はルール改正と技術革新を重ねながら日々変化するスポーツである。ということから、原田雅彦のすばらしさについて語ったら恐ろしく長くなってしまうのでここで置いておくが、雑誌のほうで展開を追うと物語はアンカレッジ五輪とか架空の過去があるパラレルワールドの話であるが、こういった競技の歴史と合間にあるエピソードが実話を基にしている(リレハンメルとか)っぽくて、これからにも期待が持てる。
 現実の世界ではバンクーバー五輪での女性のジャンプ競技がついに種目に加わるかと思われたが、やはり見送りとなりちょっと話題になった。今、アメリカは女性スキージャンパーの育成に力を入れており、実施された場合、アメリカ女性勢の活躍が予想される。男子はフィンランドノルウェーオーストリア・ドイツなど北欧からアルプスの国が強いのを思うと、女性の進出が激しいアメリカを感じさせる話である。この漫画でも女性のスキージャンプ競技参加について触れられており、そこにおける女性の葛藤が描かれるのだろう。
 ここまであまりスポーツ漫画として注目を集めることの無かった種目の魅力を伝える作品が多く登場することはこれからの漫画に対して大きく期待しているところである。また日本もかつてはスキージャンプ強豪国であり、長野での団体金メダルは記憶に新しい。日本人選手は風に乗って滑空するのが得意な選手が多く、船木和喜などピタッとキマッた飛形から伸びていくのが美しかった。ルール改正により現在のスキージャンプは跳躍力も求められるようになり、日本人選手は時代の流れにおいてかれてしまった。しかし、伊藤大貴(ワールドカップ最終節ビショフスホーフェンでバッケンレコード143mを記録)など、これから世界での活躍が期待される選手も登場し、山田いずみなど女子代表の活動もある。漫画の中で記者の与田が「低調になった日本スキージャンプ界を引っ張る圧倒的スター」として野々宮悠太に期待を寄せるように、漫画と競技が共にこれから盛り上がることを期待してやまない。