鴉/麻耶雄嵩

鴉 (幻冬舎文庫)

鴉 (幻冬舎文庫)

 麻耶作品の中では一二を争う人気ということに納得させられた一冊。
 ストーリー構成は翼ある闇から続くスタイルでありながら、ところどころで読者に対するヒントを散りばめ、翼ある闇のときに感じた読者の煮え切らない気持ちというのを完全にカットしたという感じ。
 今回のテーマは兄と弟という葛藤というのだろうか。亜鈴と珂允、松虫と蝉子、櫻花と橘花、3組の兄弟姉妹が登場するわけだが、彼らはそれぞれ兄弟という近い存在に対する葛藤を抱えている。
 そして、途中しばしば登場するメルカトルでさえも、後に(といっても別作品だが)生き別れの弟である実朝と出会い死んでゆくのだから皮肉だなぁとおもった。