ホテル・ルワンダ/テリー・ジョージ監督/ドン・チードル主演

 前々から見たいみたいといい続けてきたホテル・ルワンダをついに観にいくことができた。
 これは、1994年のルワンダで起きたフツ族によるツチ族の大虐殺という事件の悲劇をより多くの人間に、歴史の勉強をあまり必要とせずともすんなりと伝えることができる映画である。
 しかし、それ以上にポール・ルセサバギナという一人の人物を克明に描き出すことによって、この英雄像を身近にしてくれる。
 印象的なのは一度、政府軍によって捕まったポールの家族を助けるシーン。フツ族穏健派である彼を頼って彼の家に集まった近隣住民と彼の家族は政府軍によってツチ族であることがばれてしまう。彼はホテル支配人という裕福な立場を生かし、軍人に賄賂を贈ることで家族を助けてもらう。しかし、不安そうに見つめる近隣住民と目があってしまった彼は、本当なら隣人たちを見捨てて家族とともに逃げればいいのだが、近隣住民を見捨てられず賄賂を上乗せし、本当なら縁も所縁もない人を助け、近隣住民たちの英雄になってしまう。
 そして、次のシーンでは彼の必死の外国の上層部とのコネクションを頼る作戦が功を総じて、数十名が難民として国外へ脱出できるようになるシーン。
 やはり、ホテルのリーダーであるポールの家族は真っ先に難民としての受け入れ先が決まり、ホテルを後にすることになる。しかし、トラックに乗り込むときに入り口まで見送りに来た残りの難民と従業員たちと目が合ってしまう。今まで率先してきたリーダーがいなくなった彼らは生き延びることができるだろうか、そういった憂いが彼を悩ませ、そして結果的に彼はトラックに乗れないのである。そして、彼は難民1200人の英雄となるのである。
 この英雄は、自分から英雄になろうとして、なったわけではない。屈強な戦士であるわけでもないし、ヨーロッパ資本の高級ホテルの支配人にはなったエリートだけど、そんなものは国連平和維持軍が撤退した地点でなくなったも同然である。しかし、人を見殺しに出来ないという弱さから、彼は巻き込まれるように英雄になっていくのである。なんとも悲しい物語だろうか。
 かつての商売相手で過激派のリーダーである男から「裏切り者をさしだせば家族だけは助けよう」という申し出を断ったあと、リーダーによって地面を覆いつくす死体の山を見せられたあとの彼は、英雄という殻とその中にいる自分との違いをむざむざと見せ付けられ、大きく取り乱す。シャワールームで嗚咽を上げながら、「見ないでくれ」と叫ぶ姿は自分を頼る人たちに不安を与えないために残された最後の英雄の欠片だったのかもしれない。
 結果として彼は見事にそのコネとはったりで難民1200人を無事に安全地域へ連れて行くことに成功する。そして、生き別れになった姪たちと再会を果たす。そんなラストシーンはどこかしらスティーブン・スピルバーグ宇宙戦争と重なるものがあったが、感動はその比ではない。彼は小さな父親であり、偉大な英雄だったのだ、と観客にぶつける力があった。

 たぶん、ここまで一気に書けるのは、やっぱ去年一年間を通して観た映画のどれよりも、この映画に自分は感動したからだと思う。花形のスター俳優がいないから、日本では公開が見送られていた映画。しかし、そんな商業主義をぶち破る力のある映画だと思う。