女には向かない職業/P・D・ジェイムズ

 コーデリア・グレイ 22歳。共同経営者であるバーニィが自殺し、彼女は彼の探偵事務所を引き継ぐこととなった。
「女には向かない職業だ」と誰もが言うけれど、バーニィの遺志を継いだ彼女の気持ちは揺らぐことはなかった。
 そんな彼女の元に突然、大学を中退し、謎の自殺を遂げた青年の調査の依頼が舞い込む。
 彼女はバーニィの肩身である拳銃を鞄にしまい、事件の舞台であるケンブリッジを目指した。
 いや、マジメに訳が酷いとかいってゴメンナサイ。うん。まじで。純文学作家を目指したジェイムズの文章を翻訳するというのは並大抵のことではないと思う。
 物語の流れとしては初めてのおつかいを見てるような気分で、未熟な探偵が気丈にも事件の調査に乗り出し、そして犯人によって、妨害にあったり危険な目にあったりというストーリーだが、それは純文学的な筆致のせいか、どこかしらたんたんと進んでゆく、このパートはつまらなくは無いが読みすすめるのにも骨が折れるようにも感じる。
 しかし、コーデリアが事件の真相に気づいたあたりから物語は急展開を見せる。
 井戸の中に突き落とされ、あわや殺されそうになったり、真相を知った秘書が犯人である主人を殺害、さっきまで反目しあっていたのに、コーデリアがその殺人の隠蔽をしちゃったり、と大暴れの展開を見せ始める。ここまで来ると読みすすめる手が止まらない。
 最後、ジェイムズ作品を代表する名探偵ダルグリッシュコーデリアの直接対決にいたっては、彼女の作った嘘や偽装はぼろぼろにされ、あわやすべてを白日の下にさらそうとなるシーンでは、はらはらとしたスリリングなやり取りが展開される。
 最後、事件の最後の関係者であるミス・レミングの死の一報を受け、最後の一線を守り通したコーデリアダルグリッシュを泣きながら責め立てるシーンは不覚にもドキッとした。
 ここまで気丈に振舞ってきた女探偵の最後に垣間見せる22歳の女の子という一面。これだけで読者はイチコロだろう。
 ダルグリッシュ警部シリーズの外伝的な作品の登場人物にすぎないコーデリア・グレイが数ある名探偵の中でも人気上位に食い込む理由も理解できる。


 コーデリアたん、コーデリアたん、といい続けたが、本当にこれは探偵小説の皮を被った萌えるヒロインの話だということだ。

 絶対、コーデリアたん、ツンデレだって。まじで。