いざ言問はむ都鳥/沢木喬

いざ言問はむ都鳥 (創元推理文庫)

いざ言問はむ都鳥 (創元推理文庫)

 A先生と一緒にOBからオススメされた一冊。夏休みに入ってから、本に手を伸ばさない日々が続いたのだが、熱帯夜に腹を壊し、寝るに寝られない状態になり読み始めた。しかし、手をつけたらあっという間に読めてしまう手軽さが良い感じであった。

 生態学の研究者として大学の研究室に勤める“敬さん”こと私とその友人で植物生理学者樋口。研究の旅行から帰ってきた二人は早朝に、近所の家の都忘れの花びらが道路に散っているのを見つける。
 何気ない朝のひと時の瞬間から、植物学者ふたりの観察眼と推理はこのひとつの出来事の中に大きな陰謀の存在を発見する。
 何にもないようなところから大事件へと発展していく本格ミステリ。主人公たちが植物学者であり、やはり四季を彩る花々に関係したミステリが展開され、その情景を想像するに楽しい。
 また、植物の多彩さもさることながら、登場人物たちが一人一人妙にキャラが立っているので、彼らが怪事件に対してあれやこれやと議論するシーンも見ていて飽きない。
 そして、何でも無いような出来事があっという間に大事件に発展していくさまも読者を驚かせるばかりだ。

 あえて、問題があるとすればテンポがよすぎて、「あれ?あれ?」と何度もページを戻って確認してしまうことだ。結構、肩に力を入れて読まないと大事な手がかりを読み流してしまう。
 最後の最後で事件に真相については中途半端な形で終わるのも、どこか胸につかえが残ってしまうのも難点である。