殺人者の顔/ヘニング・マンケル

殺人者の顔 (創元推理文庫)

殺人者の顔 (創元推理文庫)

 スウェーデンで200万部を売り上げた、スウェーデンが世界に誇る売れっ子作家ヘニング・マンケルのクルト・ヴァランダーシリーズの第一作目。
 先日、創元推理文庫から出た最新作「目くらましの道」がかなり評判だったので1からシリーズを追ってみようというわけである。
 ちなみに人口900万人という東京都より人口が少ないスウェーデンにおいて、200万部といえば4・5人に一冊。つまり一家に一冊という普及率ではないか、と勝手に思っている。

 スウェーデン南部、スコーネ地方の海岸にある田舎町イースタの農家にて、ある日静かに暮らしていた老夫婦が惨殺される事件が発生する。事件を担当することになったイースタ警察署の警視クルト・ヴァランダーは先日、長年連れ添った妻と離婚したばかり、娘はどこをほっつき歩いているのか分からない。年老いた父は痴呆が始まりだしている、ストレスから激太りをしてしまった42歳、うらぶれた中年警視。
 田舎町を震撼させる凶悪事件を前にしても、妻を思い出しては悶々、娘から電話がかかってきては悶々、父親とけんかしては悶々という有様。
 しかし、被害者が死に際に遺した「外国の…」という言葉が警察からマスコミに漏れ、右翼団体から移民たちへの攻撃をほのめかす脅迫電話がかかってきて…。ヴァランダー警視危機一髪。

 これはかなり面白い。なんというかヴァランダーの格好悪さを前面に押し出した感じ。福祉の国として知られる北欧の一国スウェーデン。90年代には移民を広く受け入れていたことで外国から凶悪な犯罪が持ち込まれたりすることも多々あり、移民受け入れを拒否する右翼団体の活動も激しかった様子。そして、それに対する移民局の管理体制のひどさにも痛烈な皮肉が入っており、おそらく第一巻は社会派として書かれたのだろうと思われる。
 しかし、主人公のヴァランダーのヘタれっぷりと、その相棒リードベリの冷静さが妙に対比されていて群像劇としてもだいぶ楽しい一冊である。