わたしたちの好きなもの/安永知澄/川井克夫・上野顕太郎・しりあがり寿

 才能の無駄遣いともいえる恐るべき作品集

 付き合う相手がことごとく失踪する少女・恵子とその父親の秘密を描いた川井克夫原作の表題作。
 山奥の社会とは隔絶された研究施設、知り合いの科学者が10年をかけて続けてきた実験がついに終わる日、招待された科学雑誌の編集者が見たものとは…上野顕太郎原作「ちぬちぬとふる」。
 パッヘルベルのカノンと小学校の頃の人気だった先生の思い出、上野顕太郎の奥さんの実話を元にした「カノン」。
 17歳になると死ぬという言い伝えがある一族に生まれた少女なぎ。学校ではいじめをうけている彼女を忌まわしい一族の呪いが蝕み…しりあがり寿原作「なぎ」。
 「やさしいからだ」の安永知澄が川井克夫・上野顕太郎しりあがり寿を原作に迎えてコラボする短編漫画集。

 やさしいからだで「身体」をとおしての人間の感情や悲哀を描いた安永知澄であるが、その感性や表現力をもって、これらまた独特な作風持つというか、個性的というのか奇怪な漫画家たちが書くストーリーを描ききったらどうなるだろうかという企画。
 もう原作者の名前である程度、どんなストーリーとなるか察せられるかもしれないが、安永知澄の持つやさしくも切ないタッチから、急に原作の持つ毒素あふれる展開にストーンと落とされるので驚くを通り越して顔がにやけてしまう。
 ビームでも読んでいたが、原作者と安永知澄自身からの解説がついており、これがまた興味深い。カノンはウエケン原作にしては、と違和感を覚えたが、なるほど。実話だったか。