愛のゆくえ/リチャード・ブローティガン

 わしが大好きなモデルのamakoちゃんがブログでちょっとブローティガンについて触れていたので、読んでみたいとは思っていた作家。たぶん、西瓜糖の日々とかのほうを読んだほうがよかったのだろうけど。

愛のゆくえ (ハヤカワepi文庫)

愛のゆくえ (ハヤカワepi文庫)

 わたしは人々の思いをつづった本のみを保管する図書館の職員として、この不思議な図書館に住み込んで働いている。3年間もの間、日夜、自らの書いた本を携えてやってくる人々の相手をし、その思いの詰まった本を受け取り続けてきた。
 ヴァイダは少女のようなみずみずしい美貌と成熟した完璧な身体を持つ美女で、その美貌ゆえのコンプレックスを書いた本を持って図書館を訪れたことがきっかけで、わたしと付き合うようになった。
 ある日、ヴァイダが妊娠したことが発覚する。ふたりで相談した結果、堕胎することを決めたわたしたちは本の保管庫である洞窟の管理人であるフォスターの協力を得て、メキシコのティファナまで医者を訪ねる旅に出ることにする。

 原題はThe Abortion: An Historical Romance。愛のゆくえなんていう抽象的な名前なんかよりも、「堕胎」としたほうがいいのではないかとも思わせられる。
 人々の思いを保管する図書館というファンタジーな場所に引きこもっている主人公の世界に対して、堕胎のために(堕胎はアメリカでは非合法)メキシコを目指すという現実世界への旅を描くことの対照的な世界。というか主人公の世界がファンタジーなのに対して、目の前に転がっている事件はこの上なく重い現実。わしは中絶は法律で禁止するべきとはいわないけど(コインロッカーとか生んでもどうせ殺しちゃう親もいるし)、保険対象外にするなり患者の負担を重くすべきだと思っているタイプ。基本的にできちゃったとか言ってられるカップルはみんな子供の変わりに死ねばいいと思ってるくらいの喪男じゃからね。
 海外じゃ堕胎手術を行っている医者を殺してまわる連中がいるくらいの問題。現法王ベネディクト16世(稀代の悪役ヅラ。この人はハリウッドで映画に出れる)も反対してるしね。*1
 この本も授業の課題本であったが、発表者のひとりが「ひきこもりの究極形は自殺することだ」という意見には納得。死ねば「果たされなかった未来」という形で無限の可能性を永遠に抱いたままでいることができる。
 まぁ、そういうことはおいといても、ひきこもりやニートに対して問題を投げかけるという意味では今読まれるべき本であるのかもしれない。

*1:この人はゲームとか暴力的なメディアも否定しているくらいだし、前教皇ヨハネパウロ2世(超人ポープマン)がハト派な思想だった反動のように感じる。