イマベルへの愛/チェスター・ハイムズ

イマベルへの愛 (ハヤカワ・ミステリ 1142 世界ミステリシリーズ 墓掘りジョーンズと)

イマベルへの愛 (ハヤカワ・ミステリ 1142 世界ミステリシリーズ 墓掘りジョーンズと)

 黒人の人権問題が騒がれた1960年代。黒人作家が書いたハーレムを舞台にしたハードボイルド小説。最初はアメリカではなくフランスの〈セリ・ノワール〉から出たが、これがジャン・コクトーの賞賛を得て、アメリカに逆輸入されたという経歴を持つ。
 チェスター・ハイムズ自身、医者を目指したり、刑務所に入ったり、作家の弟子となるべくルイス・ブロムフィールド(ボンベイの夜などの代表作を持つ当時の売れっ子作家)の屋敷で執事をしたりという経歴を持つ苦労人の作家である。
 この小説を読もうと思ったのは前に書いたペレケーノスの『変わらぬ悲しみは』の中にデレクの兄が強盗の下見でスーパーマーケットを訪れる際に、スーパーのラックの中にあったペーパーバックを眺めるところに登場したというだけ。当時の黒人社会を読もうと思ったときに、その中で読まれていたものを読むと言うことに興味を持ったって話。
 実際はアメリカでは「セックス&バイオレンス」な小説は賛否両論という感じだったようだし*1アメリカよりもノワールの国フランスでもてはやされたらしい。

 葬儀屋に勤める敬虔なクリスチャンのジャクソンは、イマベルに夢中だった。セクシーな体つき、バナナ色の肌、そそるような茶色の目……イマベルこそは生まれながらの妖婦だ。そのイマベルの誘いで虎の子の金を増やそうとしたジャクソンはまんまと騙され、一文なしになり、さらには警察にも追われる羽目に。姿を消したイマベルを求めてハーレムをさまようジャクソン。一方、妖婦イマベルをめぐり、黒人三悪人と南部の詐欺師団が衝突。そのさなかに、墓掘り&棺桶の異名を取る刑事コンビが殴り込むにおよび、ハーレムは凄じい様相を呈していく!(ハヤカワ・オンラインより)

 一番うけたのはやっぱ冒頭のオーブンでチンしたらお金の額面が10倍になるという恐ろしく胡散臭い詐欺にまんまと引っかかり、詐欺師に摩り替えられたお金が入ったオーブンが爆発する場面。これには笑わせてもらった。
 ジャクソンの朴訥さが出てて、いい感じであった。ジャクソンの双子の兄弟ゴールディやイマベルなど他にも個性豊かな登場人物が出てきて、物語を面白おかしくしてくれるのだが、肝心の主人公の墓掘り&棺桶コンビが薄いのが残念この上ない。とりあえず、銃を持たせちゃいけないタイプの人間だと言うのは分かったけどさ。

*1:ミッキー・スピレーンマイク・ハマーが流行ったのは50年代だったし、もしかしたら時代的にも作風が遅れていたのか気になるところ