理由あって冬に出る/似鳥鶏

理由(わけ)あって冬に出る (創元推理文庫)

理由(わけ)あって冬に出る (創元推理文庫)

 主人公葉山は市立高校の芸術棟に部室がある美術部の生徒。ある日、吹奏楽部の秋野麻衣から芸術棟にフルートを吹く幽霊が出るという噂を聞かされる。
 吹奏楽部部長と秋野はそんな噂話を気味悪がって練習に来ない部員たちに幽霊なんかいないことを証明するため、放課後芸術棟を見張ることを決意する。その証人として第三者である葉山に白羽の矢が立ったのだ。
 そして、部長、秋野、葉山、そして勝手についてきた三野の4人が夜、学校に忍び込んでみると、そこには窓に映る人影とフルートの音色が!
 この噂に揺れる学校。高校生たちが見つけ出したこの幽霊騒ぎの真実とは!?

 絵に描いたような「鮎川哲也賞佳作」っぽい作品。良い意味でも悪い意味でも。
 高校の文化部の生徒たちが事件解決に望む青春ミステリー?
 わしは高校時代、文芸同好会(部ですらない)だったのだが部室というものが無性にほしかった。部でコピー誌を出しても保管場所がないのだ。結局、誰か部員のロッカーに押し込むなりしてつないでいたけど、せめてそういったもろもろの部の備品の置き場や放課後の居場所がほしかった。ずっと教室に残って勉強しているのは結構つらいんだぜ。マゾデ。
 そんなわけでこの芸術棟というアイテムはかなりわしにとって羨望の目でしか見れない代物であり、むしろ嫉妬に近い気持ちでこれを眺めていた。(同様のことが、米澤穂信古典部シリーズでもおこる)
 といった自分語りをおいておけば、まさに先に書いた「佳作」。
 『虐殺器官』もそうであったが去年は完成度が高い「佳作」作品が多かったように思う。外野まで飛ばす力はあるんだけど、ライト定位置でキャッチのような打球というか作品。そのパワーというか高い完成度を買われて、出版社は書籍化をするのだろうけど、やっぱ「お前の本当の力はこんなもんじゃないはずだ」というような心境に読んでて陥る。
 さて、とくに創元推理文庫から出ているのに装丁がtoi8*1というあたりにラノベのレーベルっぽさが漂う。わしも「これなら軽く読めそうだ」という気持ちで表紙買いしたのであるが、そういった層を狙っているということなのだろうか。
 とにかくとして、そういったところに頼らないといけないほど、しっかりとしたトリックを持っているのに細く頼りない。
 あとはやっぱデビュー作とあって、なんかちょっと「ん?」って引っかかる場所が多かったのもある。だけど、ミステリという点では形になっているので、アマゾンレビューなら星2つというところかしらん。

*1:迷宮キングダムのリプレイの挿絵もこの人だ。そういえば