エヴァ・ライカーの記憶/ドナルド・A・スタンウッド

エヴァ・ライカーの記憶 (創元推理文庫)

エヴァ・ライカーの記憶 (創元推理文庫)

 今年読んだ本の中でもっとも読み応えがあった小説といえばこれ。かつては新潮社から出ており、半ば伝説と化した一冊であったのだが二十数年の年月を経て東京創元社から復刊。今年の創元社はいい仕事をするとの噂であるし。
 物語は第二次世界大戦直前のハワイから始まる。ホノルルの警察に勤めるノーマンは殺人事件に巻き込まれた女性と出会う。何者かによって夫を殺害された女性は「私たち夫婦はタイタニック号の事故を生き延びたというのに…」と悲嘆に暮れる。その後、事情聴取のために彼女のホテルを訪ねたノーマンは女性のバラバラ死体を発見する。恐怖のあまり現場を放棄して逃げるノーマン。彼はその行動を責められ警察を辞める。それから二十年の歳月をへて、世界大戦の混乱を越え作家となったノーマンの元に大富豪ライカー氏が始めたタイタニック号引き揚げ計画についての記事を書く依頼が舞い込む。
 かの有名なタイタニック号の事故を舞台に練り込まれた話はハードボイルド、本格推理、パニック、サスペンスと話が二転三転するごとに物語も変化してゆく。そんな読んでいて次々と色を変えて繰り広げられる展開とそのダイナミックさに読者も飲み込まれてしまう。
 夢中になれる小説を探している方には是非オススメの一冊。